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2025.10.30
研究ニュース
ヌタウナギは、外敵に襲われると大量の粘液を放出して身を守る、原始的な海洋生物として知られています。その粘液には、極めて細く強靭なタンパク質繊維が含まれており、古くから生物学者や材料科学者の関心を集めてきました。
このたび山形大学理学部の並河英紀教授(専門分野:自己組織化)、渡邊康紀准教授(専門分野:構造生物学)と工学部の宮瑾教授(専門分野:高分子科学)の共同研究グループは、ヌタウナギの粘液中に含まれるタンパク質を利用し、持続可能な新規ゲル材料の創成に成功しました。本研究では、電解質や高分子の共存条件を調整することで、タンパク質分子間に液–液相分離を誘起し、さらに液–固相転移を経てゲルを形成させることに成功しました。
得られたゲルは、優れた生分解性と力学特性を兼ね備えた100%バイオマス由来の次世代バイオマテリアルとしての応用が期待されます。ヌタウナギの粘液を原料としたこのゲルは、「100%自然由来であり、100%自然に還る」夢の素材となる可能性を秘めています。これまでヌタウナギの粘液は扱いにくい厄介な物質とされ、ヌタウナギの養殖も産業化されていませんでした。しかし、本研究を契機にサステナブルな新素材としての利用が進めば、ヌタウナギ養殖を含む新たな地域産業の創出にもつながることが期待されます。
本成果は、未利用海洋生物資源を活用した環境調和型材料開発の新たな道を拓くものであり、英国王立化学会の学術誌 Soft Matter に掲載されました。なお、本研究は山形大学先進的研究拠点(YU-COE)の支援を受けて実施されました。

山形大学工学部・宮教授の研究室で飼育されているヌタウナギ

ヌタウナギの粘液を原料に作成されたハイドロゲル
掲載誌:Soft Matter
論文名:Hydrogel Formation by Liquid–Solid Phase Transition of Hagfish Intermediate Filament Protein Condensates