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2023.04.17

研究ニュース

モンスター級のガンマ線バーストに対してX線の偏光観測をIXPEが世界で初めて実現しました(理学部教授 郡司修一)

・史上最大の強度を持ったガンマ線バーストGRB 221009AがIXPE衛星によって観測され、その結果が2023年3月28日Astrophysical Journal Lettersに掲載されました。山形大学理工学研究科を2023年3月に修了した寺島政伸君も主著者(Tier-1)の一人として研究に参加しました。 https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/acba17

ガンマ線バースト(GRB)とは宇宙最大の爆発現象と呼ばれており、太陽が一生かけて放出するエネルギーをわずか数十秒で放出してしまう天体現象です。その正体は、大質量星が進化の最終段階を迎えるときに起こすか若しくは非常に高密度な天体(中性子星)が合体する際に起こる現象だと知られています。GRBが起こった直後は、そこからジェット状に大量のガンマ線が放出されます(X線も出ています)。それをプロンプト放射と呼び、これは精々数百秒程度で終わります。またそのプロンプト放射が終わった後にも、X線、可視光、電波などが数日程度の間じわじわ出てきますが、これをアフターグローと呼びます。今回起こったGRB 221009AはGRBの中で観測史上最も強いプロンプト放射とアフターグローを放出しており、数千年に1度起こるかどうかという非常に貴重な現象でした。そしてもう一つ特別な事が重なりました。我々は星や星間ガスが円盤状に集まった銀河系の中に住んでいますが、今回のGRB 221009Aがたまたまその円盤面に沿う方向で起こったのです。そのため、GRBからやってきたX線は単にこのガスをくぐり抜けて地球にまっすぐ届くだけでなく、ガスに散乱されて届く成分も観測されました。図にはGRBからまっすぐ届いたX線は青い実線で書かれており、散乱されて届いたX線は赤い実線で描かれています。そのため地球から見ると、GRBの発生方向からX線が観測されただけでなく、それを取り巻くようにリング上のX線の“後光”(図では橙色の実線)が観測されました。そしてこのリング状に広がった“後光”のX線成分(図では赤い実線)は、ダイレクトに地球に届くX線(図では青い実線)よりも長い距離走って来るため、遅れて地球に届きます。この効果から、GRBの起こっている方向からは時間的に遅れて放出されたアフターグローが観測されて、リングの場所からは先に放出されたプロンプト放射が見えるという、時間的にずれて起こった2つの事象を同時に観るという世にも不思議な現象が観測されました。そのため今回IXPE衛星は、GRBが発生してから2.5日程度遅れて観測を開始しましたが、発生直後に放射が終わっていたプロンプト成分もアフターグローと同時に観測できました。特にIXPE衛星はX線の偏光観測が行えるため、プロンプト放射で出てきたX線とアフターグローで出てきたX線の両方の偏光観測を同時に行う事ができました。今回、どちらのX線からも有為な偏光は観測できませんでしたが、それでもGRBのジェット軸に対して観測者がどちらの方向から観測を行っていたのか、またこのジェットの開き角はどの程度だったのかという知見を得ることができました。  

 本研究には山形大学理工学研究科を2023年3月に修了した寺島政伸君が大きく関わっており、彼もデータ解析に参加しました(論文発表に主な貢献を行った人達をTier-1メンバーと呼びますが、日本人では寺島君と郡司がTier-1のメンバーです)。さらに詳しい内容はNASAの以下のページをご覧下さい。 https://www.nasa.gov/feature/goddard/2023/nasa-missions-study-what-may-be-a-1-in-10000-year-gamma-ray-burst

IXPE衛星はX線の偏光撮像が行える世界初のX線観測衛星で、米国とイタリアが主導する国際共同 プロジェクトであり、日本からも山形大学、理化学研究所、広島大学、大阪大学、中央大学、名古屋大学、 東京理科大が参加しています。

本研究の一部は、科学研究費補助金基盤研究A(課題番号:19H00696) 「X線偏光観測による回転するブラックホールの時空構造の解明」によってサポートされました。                                   研究代表者:山形大学 郡司修一                                                                                                        研究分担者:広島大学 水野恒史、理化学研究所 北口貴雄、名古屋大学 三石郁之、大阪大学 林田清(故人)