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2020.06.22

研究ニュース

スーパーコンピュータを使った大規模シミュレーションで固体電解質中の不純物分布の予測に成功

現在、水素と酸素から水を作る反応のエネルギーを電気に変換する燃料電池の開発が、世界中で急ピッチで進められています。燃料電池の実用化に向けてのハードルの1つが、電解質の伝導性と安定性の両立です。その中でも固体電解質、すなわち、イオンを流すことのできるセラミックス材料は、高温(約500℃以上)動作時の伝導性と安定性を両立する材料であり、盛んに研究が行われています。高温動作によって白金などの高価な触媒が必要なくなるため、コストを下げることができるということも重要なポイントです。

 

本研究では、ファインセラミックスセンターおよび東京大学物性研究所と共同で、高性能な固体電解質として有望視されているジルコン酸バリウムという材料を調べました。この材料は純粋物質としては絶縁体なのですが、イットリウムなどの不純物を導入することで水素イオン伝導性が生じることが知られています。今回、量子力学と熱力学の原理に基づいた原子スケールシミュレーションをスーパーコンピュータ上で実行することで、従来、概ねランダムに材料中に分布すると考えられていた不純物が、ある程度の規則性を有して分布することがわかりました(図)。そして、この分布が不純物濃度やセラミックスを焼成するときの温度に依存すること、および、特定の条件でイオン伝導性に有利な分布になることを突き止めました。今後、同様の計算を様々な材料に応用していくことで、革新的な固体電解質材料の設計条件を予測・提案し、その実用化に資することが期待されます。
(理学部共通 笠松秀輔 助教)

低温における、不純物濃度ごとの不純物分布

図:低温における、不純物濃度ごとの不純物分布([S. Kasamatsu et al., J. Mater. Chem. A, 2020, Advance Article] – Reproduced by permission of The Royal Society of Chemistry)。

発表論文

“Dopant arrangements in Y-doped BaZrO3 under processing conditions and their impact on proton conduction: a large-scale first-principles thermodynamics study”,
S. Kasamatsu, O. Sugino, T. Ogawa, and A. Kuwabara,
J. Mater. Chem. A, Advance Article.

https://doi.org/10.1039/D0TA01741H