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2020.07.09

研究ニュース

ガンマ線誘起陽電子消滅寿命分光(GiPALS)法を開発しガーネットに潜む空孔型欠陥複合体の検出に成功

ガーネット(柘榴石)は鉱物の一種で結晶学および材料学の分野において古くから研究されています。最近では、レーザー媒質やシンチレーターなど光学結晶として実用化され、最先端科学技術にはなくてはならない必要不可欠な物質です。一般に、固体結晶は原子空孔や格子間原子などの格子欠陥が導入されて安定化します。ガーネット結晶にも様々な格子欠陥が存在し、中には光学的特性に悪影響を及ぼすものも存在します。先行研究において、酸素を含む欠陥複合体がその起源であることを明らかにしました。しかし、その欠陥複合体がなぜ形成されるのか、その欠陥生成過程の解明には至っていませんでした。

今回の研究では、分子学研究所、京都大学、東北大学、広島大学、名古屋大学、原子力研究開発機構、早稲田大学と共同して、超短パルスレーザーと電子ビームを90度衝突させて逆トムソン散乱によってガンマ線を発生させてそのガンマ線を用いた陽電子消滅寿命分光(Gamma induced Positron Annihilation Lifetime Spectroscopy; GiPALS)法を開発しました。高繰り返しで規則的に駆動する超短パルスガンマ線を利用することで測定精度が格段に向上し、これまではとらえることができなかった極微量のカチオン原子空孔を検出することに成功しました。また、カチオン空孔には酸素空孔が隣接して存在することも明らかにしました。今回の発見は、酸素空孔がカチオン空孔の電荷補償体として導入され、カチオン空孔を抑えることが光学特性を改善する鍵であることを示しています。今後、選択的ドーピング技術等の開発によりガーネット結晶の高品質化が期待されます。この研究では、本学大学院理工学研究科博士前期課程の藤森公佑さんが中心的役割を果たしました。

(山形大学理学部 北浦 守)

発表論文

Visualizing cation vacancies in Ce:Gd3Al2Ga3O12 scintillators by gamma-ray-induced positron annihilation lifetime spectroscopy

K. Fujimori, M. Kitaura, Y. Taira, M. Fujimoto, H. Zen, S. Watanabe, K. Kamada, Y. Okano, M. Katoh, M. Hosaka, J. Yamazaki, T. Hirade, Y. Kobayashi, A. Ohnishi

https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/aba0dd

図1 ガンマ線を用いた陽電子消滅寿命分光法の仕組み

図1: ガンマ線を用いた陽電子消滅寿命分光法の仕組み。

図2: ガンマ線誘起陽電子消滅寿命分光法によって原子空孔を見分ける方法。

図2: ガンマ線誘起陽電子消滅寿命分光法によって原子空孔を見分ける方法。

図3: ガーネットの結晶構造と3つの陽電子消滅位置の模式図

図3: ガーネットの結晶構造と3つの陽電子消滅位置の模式図。