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2021.05.07

研究ニュース

板谷昌輝さん(理工学研究科博士後期課程3年)が日本化学会第101春季年会で学生講演賞を受賞

日本化学会第101春季年会で学生講演賞を受賞した板谷昌輝さん(理工学研究科博士後期課程3年)

自然界には太陽系惑星軌道やバクテリアコロニーの同心円状パターンなど、構造の周期が等比級数的に変化する構造が存在します。このような周期構造の形成の背景には、自然界に特有のエネルギーや物質が常に供給、消費、排出される仕組みが組み込まれて形成されるものもあります。このような構造の化学モデルの一つに、リーゼガングパターン(Liesegang pattern: LP)と呼ばれるゲル内への物質 (イオンや分子など) 拡散と沈殿形成反応の競合により形成されるものが知られています。

そこで、LPの形成機構を化学的に解明し、それらの原理を数理科学モデルにより一般化することで、自然界の類似周期構造の形成機構解明に役立てようとする試みとして、拡散してきた水溶性物質が核と呼ばれる不安定な状態を形成する過程(核形成)を経由することを前提とした研究が主に行われてきました。

ところが自然界のLP類似構造形成に目を向けると、必ずしも全ての現象が核形成を伴うわけではありません。すなわち、LP形成を自然界のモデルとして活用しようとしても、上記の理論的制限があるため、実験モデルと自然界の機構の間には大きな乖離が存在していました。

そのような背景を踏まえ、本研究では核形成を経由しない反応系を用いて新奇のLP形成系を構築することを目的としました。具体的な研究戦略として、核形成を経由することなく相転移を示すことが知られている、金属ナノ粒子の分散・凝集相転移に着目し、具体的には弱酸性基であるカルボン酸を有する有機分子を金ナノ粒子表面に配位させることにより、反応場のpH変化で分散・凝集相転移が誘起される系を用いました。その結果、金ナノ粒子及びpH変化が、ある一定の条件に達した時にLP類似の周期構造が形成され、それらの形成ダイナミクスは核形成を伴わない相転移に支配されていることがわかりました。さらにそれらの結果を、核形成を経由しない過程を想定した数理モデルを用いた数値シミュレーション結果と比較したところ、実験・シミュレーション結果の双方の周期構造の特性および形成ダイナミクスが一致しました。

以上のことから、本研究で構築された系は、核形成を経由しない相転移理論に基づく新奇のLP形成系であることが明確化されました。この結果で得られた実験的特性を従来の理論モデルにフィードバックすることによって、より自然界の多様性に対応したLP形成の標準モデル構築が可能になると期待されます。


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