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2022.04.12

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(特集)科研費取得教員の声-Fermilabドレル・ヤン実験で探る陽子内反クォークのフレーバー・スピン構造-(研究代表者:宮地義之教授)

原子核を構成する陽子・中性子は何から出来ているのでしょうか?高校物理の教科書には『クォークと呼ばれる基本的な粒子3個から出来ている』と書かれています。では、クォークはどのように結びついているのでしょう?

加速器を利用した素粒子原子核実験は、ミクロな世界を覗き見る高分解能顕微鏡です。陽子の中を見てみると、生成・消滅を繰り返すクォーク・反クォークで埋め尽くされていることが分かってきました。クォークを結びつける力は「強い力」とよばれ、「量子色力学(QCD)」で記述されます。クォークは「色」の性質を持ち、全体で「白」になるように力が働きます。強い力はあまりにも“強く”、クォーク・反クォークの対生成・対消滅を引き起こすとともに、クォークを陽子の中に閉じ込めます。

陽子の様々な性質は、電荷+e 、スピン1/2、質量938 MeV/c²(=1.673×10⁻²⁷ kg)等と決められています。陽子がクォークから構成されるのなら、その性質もやはりクォークからうみだされているはずです。数MeV/c²の質量しかもたないクォークがその数百倍の陽子質量をどの様に生み出すのか、その機構をQCDから解明する事は原子核物理学の究極的な命題の一つです。解明の鍵は陽子中の「反クォーク」にあります。

先行研究にあたるSeaQuest実験ではFermilab(米国)120 GeV 陽子ビームによるドレル・ヤン実験を行い、陽子中の反クォークの構成を精密に測定しました。ビーム中のクォークと標的中の反クォークが対消滅した後に生成されるミュー粒子対(ドレル・ヤン反応)を測定する事で、陽子中の反クォークを検出できます。6種類(フレーバー)のクォークのうち、陽子を作るのは主にアップ・ダウンクォークですが、陽子中には反アップよりも反ダウンクォークの方が多く生成される事を明らかにしました。

陽子スピン1/2の起源の解明も解決すべき課題の一つとして30年以上にわたり取り組まれています。近年、解決の糸口が「反クォークの公転」にあることが、スーパーコンピューターを利用した研究で示されました。陽子スピン(自転)の向きに対して特定の方向に反クォークが公転し、反アップ・反ダウンでその様子が異なるというのです。採択された基盤研究(B)では、120 GeV 陽子ビームとスピンを揃えた陽子・重陽子(偏極標的)による散乱を反クォーク研究に実績のあるSeaQuest検出器で測定するSpinQuest実験を実現し、反クォークの公転をフレーバー毎に明らかにすることを目的としています。

SpinQuest実験セットアップ Fermilab 120 GeV 陽子ビームとSpinQuest偏極標的(Polarized Target)の散乱で生じるミュー粒子対(Muon pair)をSeaQuest検出器で測定する。

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